毎日新聞社説:米・キューバ接近 意義深い発想の転換だ
毎日新聞 2014年12月19日 東京朝刊
世界にとって久々に明るい話題である。1961年に断交した米国とキューバが国交再開へ大きく動き出した。オバマ大統領とキューバのラウル・カストロ国家評議会議長がほぼ同時にテレビ演説を行い、関係改善への意思を互いに表明したことは喜ばしい。両国の国交再開への交渉が着実に前進するよう望みたい。
この演説でオバマ大統領はキューバを孤立させる「時代遅れの政策」を終わらせると述べた。「核兵器のない世界」演説を思い出させる、意義深い発想の転換である。来年1月に高官が率いる外交団をキューバに派遣し、首都ハバナに大使館を開く方針で、同国に82年から科しているテロ支援国家指定の解除や旅行・送金制限の緩和も検討するという。
一方、キューバ側はオバマ大統領の決断に謝意を表明し、これに先立って5年前から拘束していた米国人を解放した。両国の交渉にはローマ法王庁(バチカン)やカナダも一役買ったという。交渉を実らせた多国間の連携を評価したい。
大統領が言うように米・キューバを対立の構図でとらえるのは「時代遅れ」だ。米本土の目と鼻の先にあるキューバは59年の革命で親米政権を倒してソ連に接近した。62年にはソ連がミサイルをキューバに搬入してキューバ危機に発展した。ケネディ大統領は核戦争も辞さない覚悟でミサイル撤去を求め、ソ連がこれに応じて危機は去った。
その後も摩擦や対立はままあったにせよ、冷戦終結で両国の対立は形骸化の道をたどり、関係改善を求める声は両国内でも国際社会でも高まる一方だった。国連総会は毎年、米国の対キューバ政策の変更を求める決議を採択している。
もちろん、関係改善が順調に進むとは限らない。米議会は年明けから共和党が上下両院を支配する。制裁緩和など議会の承認を必要とする事項で共和党が抵抗する可能性もあるからだ。だが、多くの米企業がキューバの市場に熱い視線を向ける折、共和党も反対一辺倒とはいくまい。
キューバと国交がある日本も昨年の統計では同国への輸出が30億円台、輸入は14億円台に過ぎない。米国との関係改善がキューバと日本の交易拡大を促すことも期待されている。
オバマ大統領はイランとの関係改善を視野に入れていたが、核関連の交渉が進まず、関係改善のめどが立たない。キューバとの関係改善は、ノーベル平和賞受賞者でもある大統領のレガシー(政治的功績)づくりという面もあろう。だが、両国の復交は古い冷戦構造を名実ともに解消することになる。キューバをめぐるオバマ大統領の努力は世界の緊張緩和につながるはずだ。