民意どこへ:2014衆院選 さまよう「脱原発」票 抗議行動を続ける人々、野党に「道筋示せ」
毎日新聞 2014年12月11日 東京夕刊
東京電力福島第1原発事故後2回の国政選挙はいずれも原発維持に傾く自民党が圧勝した。一方で、毎日新聞の世論調査(9月実施)では、再稼働に反対という人が依然6割弱を占める。脱原発を求める人々は何を思うのか。毎週金曜日に首相官邸前で続く抗議行動の現場で探った。【関谷俊介】
5日夜、東京・永田町。凍える手に息を吐きかけながら、「川内原発(鹿児島県)再稼働反対!」「原発ゼロを撤回するな!」と声をそろえる人々の姿が街灯に照らされていた。「原発をなくせったって、野党から対案が出てこないでしょ」。自民党支持という警備員の男性(70)がその横を足早に通り過ぎる。
政権を取り戻した2012年衆院選で、自民党は「原子力に依存しなくてもよい経済・社会構造の確立」を公約に掲げていた。だが今回の公約にその文言はなく、原発再稼働に前のめりだ。「自民党の暴走を止めたい。民主党にしっかりやってほしい」。通りかかった保育園理事長の男性(65)はそう話す。
だが民主党も政権時代の12年6月に大飯原発(福井県)の再稼働を決めた。その後、脱原発を求める世論を受けて「30年代原発稼働ゼロ」の目標を定めたが、閣議決定は見送られた。「電力系労組の支援もある。民主党は本当に原発に反対なのって思ってしまう」。抗議行動に参加する男性(72)は落胆を込めて言う。
「どこに入れたらいいか、困るんだよねえ」。抗議行動に参加して楽器を打ち鳴らしていた男性(68)は投票先を迷っていた。原発稼働即時ゼロを掲げるのは、共産党や社民党。だが「稼働させないにしても既に出てしまった使用済み核燃料をどう処分するのか具体的な道筋を示してほしい」と要望する。
主催団体のミサオ・レッドウルフさんによると、2年9カ月続く抗議行動の最盛期は大飯原発再稼働前後。「悪く言えば、当時に比べて危機感が薄れた。でも、今も続いているのは活動が安定している証拠。何より自分たちの考えを可視化することが重要だと思っている」という。
月1回ほど参加している男性(64)は話す。「投票には行きますよ。たとえ票が無駄になっても意思表示できる機会です。投票もやめてしまったら、民主主義自体が壊れてしまうでしょう」
抗議行動が終わりに近づくころ、集団から離れた女性(49)に話しかけた。「今日初めて仕事帰りに寄りました。原発、このままでいいのかなって思って」。投票に行くかを尋ねると、さっぱりした顔で言った。「今日も私一人だけでは変わらないと思ったけれど、声を出しました。選挙も同じ。たとえ1票でも入れなければ何も変わりません」