欧州危機:揺れる世界経済 ギリシャ債務削減、投資家の参加率焦点 75%未満、デフォルトで混乱も
2012.03.08 毎日東京朝刊 6頁
【ロンドン発】財政危機に陥っているギリシャの債務(借金)を削減する支援策実施に向け、同国国債を保有する民間金融機関など投資家が債務削減に応じるかどうかの期限が8日夜(日本時間9日朝)に迫った。9割以上の金融機関が参加すれば、支援策は円滑に実施に移されるが、参加率が低ければ支援策が破綻しかねず、ギリシャ政府は、債務削減に応じない投資家に強制参加させる構えもみせる。ギリシャ情勢は再び緊迫化している。
ユーロ圏は先月の財務相会合で1300億ユーロ(約14兆円)のギリシャ支援策で合意。このうち債務削減は、国債元本の53・5%を棒引きし、残る債務のうち31・5%を低金利で長期のギリシャ国債と交換する計画だ。
「我々の目標は全員に近い参加だ」。ギリシャのベニゼロス財務相は5日、全体の9割以上の参加者を目指す考えを強調した。約450の民間金融機関を代表してギリシャと交渉してきた国際金融協会(IIF)は7日には、債務削減対象の国債2060億ユーロのうち、約4割に当たる810億ユーロを保有する30の金融機関が参加を表明したと発表した。だが、債務削減計画では将来の利子の減額分を含めると「7割強」の棒引きになるとされ、欧米ヘッジファンドなど一部の投資家は参加に慎重な姿勢を示している。
市場が注目しているのが、参加率が9割を下回った場合、参加しない投資家にも強制参加させることができる「集団行動条項」。ベニゼロス財務相は「必要なら発動する用意がある」と適用する構えをみせる。
この条項はギリシャ国会で先月成立した法律に明記。対象投資家の3分の2以上の賛同で、ギリシャ政府が発動できる。
ギリシャが強制適用した場合、「保険」となる「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」の支払いが発動されるのは確実で、CDSの売り手の金融機関は損失を抱えることになる。ただ、CDSの残高は約32億ドル(約2500億円)で、金融機関は引当金を積み、損失に備えている。事態が想定内であることから、中央銀行関係者は「デフォルトであっても、秩序だったものとなる」と話す。それでも、CDSが発動されれば、国債利回りが高い(価格は低い)ポルトガルなど周辺国に危機が飛び火しかねないとの市場の懸念は根強い。
参加率が9割未満なら、「集団行動条項」は発動されるのだろうか。一部の欧州メディアは「75%以上90%未満」の場合、強制条項は使わず債務削減を実施する可能性があると指摘。欧州委員会高官も「集団行動条項」が発動される事態にはならないと明言しており、少なくとも75%の参加率を達成できるかどうかが最大のポイントとなりそうだ。
一方、参加率が75%を下回り、強制削減できなければ深刻な事態となる。債務削減を実施できず、支援策は白紙に戻る。
ギリシャは今月20日に145億ユーロの借金返済期限を迎える。それまでに新たな支援策がまとまらなければ一方的に借金返済を停止する「無秩序なデフォルト」に陥り、欧州危機が再燃するとの見方が強い。
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■ことば
◇CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)
国債や社債などが債務不履行(デフォルト)に陥り、借金が棒引きされるリスクに備えた保険商品。国債などを保有する投資家が、売り手の金融機関から買い、一定の保証料を払う。デフォルトの際には損失分の補償を受け取ることができ、その分は売り手の損となる。保証料率はデフォルトの可能性が高い債券ほど高くなる。