リベラル重鎮の元財務相・藤井裕久が怒りの提言 巨大与党「安倍独裁政権」を倒す方法を伝授!
2017年10月31日
Texts by サンデー毎日
「野党」よ、何やってるんだ!
反改憲、反安保法、反共謀罪で野党は結集せよ
与党大勝により「安倍独裁」がますます勢いづきそうだ。海外メディアからは「安倍主義国家ニッポン」なる批判もなされている。改憲をメインテーマに掲げてきそうな現政権に対して、野党はいかに闘いうるのか。リベラルの重鎮・藤井裕久元財務相が激白。倉重篤郎が迫る。
今回の選挙。一転二転の情勢変化に、関心を持ったのは日本メディアだけではない。外国メディアからも久々に注目を浴びた。
ドイツの『デア・シュピーゲル』誌アジア特派員のヴィーラント・ワーグナー氏もその一人だった。東京、上海、北京、ニューデリー支局長を歴任したベテランだ。長年の日本ウオッチャーでもある。9月28日の民進党・希望の党の合流というニュースに、別の仕事のため帰国する日程を取り消し、日本国内に残って来るべき大政局に備えた。
「日本という国は、絶対に変わらない、というのが、私の長年の日本観だったのですが、今回はそれではいけない。ジャーナリストらしく、ちゃんと好奇心を持ってフォローすべきだ、と自らをいさめました。もしかしたら初の女性首相が出てくるかもしれない」
ただ、その後に起きたことは、新しい日本に身構えた氏の期待をことごとく裏切り、その日本観をますます強固にする結果に終わった。安倍晋三首相率いる与党が大勝、その政権基盤を強めただけで終わった。
「中国の習近平政権は今回の党大会で、自らの名前を冠した思想、習イズムを党規約に盛り込み、3選も射程に長期政権への足場を強固にした。安倍氏もまたアベノミクスを党公約のど真ん中に置き、総裁選規約を変更して3選を可能にしている。両国は互いを批判し合ったりもしているが、似た面もありますね」
結局、ワーグナー氏が送った今回の選挙を総括した原稿のタイトルは、デモ(民主)クラシー(主義・政治)ならぬ「安倍クラシー」(独語では「安倍カティ」との読み)となった。
中国は毛沢東主義ならぬ習近平主義の治世となりつつある。日本もまた単なるアベノミクスの国から経済のみならず、すべての側面で安倍的なものがはびこる安倍主義の国になった、というのがドイツ人ジャーナリストの視点であった。確かに、安倍氏が2012年の衆院選から連続5回も国政選挙で勝利していることからすると、そう見られるのは仕方ないかもしれない。
ただ、日本国民としては「安倍主義国家ニッポン」と言われてもピンとこない。決して積極的に安倍政治を選んでいるわけではないからだ。問題は、政策、政局両面で安倍体制に対し明確で強力な対抗軸を打ち出し切れない野党のふがいなさにある。リベラル勢力の応援団長格の藤井裕久氏(民主党政権時の財務相)に、野党の現状をどう見るか、安倍1強に対峙(たいじ)するためにどうすべきかを聞いた。
前原誠司氏への“事情聴取”
例の合流発表の直後、前原誠司民進党代表を呼んで“事情聴取”した、という。
「僕は民進党の元国会議員会、つまり、OB・OG会の会長をしています。20人くらい来たかな。輿石東(こしいしあずま)(元民主党幹事長)、北澤俊美(元防衛相)さんらも顔をそろえた。一体どうなっているんだ、と前原君に説明を求めました。『民進党のままで選挙に突っ込んだ場合は、必ず負けます、50議席くらいまで落ち込みます、だから合流という選択肢を取りました』と」
「私はこういう聞き方をした。『民進党が無所属を含め三つに割れたのは本当に残念だ。でも、みんな反安倍の一点では同じ志だね』と。前原君は『その通りです』と答えた。『であるならば、その3グループ、誰のところへ行ってもいいな。そうでなければ我々は応援はできないよ』と念を押した。それに対しても『結構です』というのが前原君の回答だった」
「だから、僕は前原君との約束、ということで、全部応援に行きましたよ。立憲民主党は菅直人(東京18区=小選挙区当選)、阿部知子(神奈川12区=同)、無所属は野田佳彦(千葉4区=同)、希望の党は僕の後継者である本村賢太郎(神奈川14区=比例復活当選)……」
例の新安保法制容認が踏み絵となった問題は?
「これも質問が出た。民進党の廃案路線と小池(百合子都知事)さんの考え(容認路線)は違うじゃないかと。前原君は新安保法制については政策協定書に『憲法にのっとり適切に運用する。その上で不断の見直しを行う』としたので、これで許してほしい、とのことだった。ただ、それに対しては『希望の党はそもそもその憲法も改正するつもりではないのか』との二の矢もつがれた。『排除と言っているが、話が違うじゃないか』との批判に対しては、明確な回答がなく、うやむやだった。あまり追及してもかわいそうだ、という感じになったね」
ただ、その小池・前原間で何がどう話し合われたか。何で急に排除の論理になってしまったのかが、いまだにわからない。
「二人は日本新党の仲間ですが、師匠は細川護熙氏。細川氏は絶対に今回の排除の論理を許してない。僕は細川氏ともお付き合いがあるが、あのやり方はひどい、と言っている。細川氏は首相就任直後、日中戦争は侵略戦争だと明言した。僕と考えは同じです。弟子の小池百合子さんは違う」
安倍氏より右との説も。
「そうですね」
その小池さんと一緒になる時になぜ合流条件を詰めなかったのか?
「僕も全くその通りだと思う。残念なことだと思います。自分たちだけでやれば負けるが、合流すれば伸びるだろうと。考えが拙速、安直に走ってしまった。ここ一番のリーダーとして、大局的にものを見られる人が必要だった」
今回の合流政局を振り返ると、それぞれのリーダーの対共産党観が浮き上がる。小沢一郎氏は共産党も含めた野党共闘論者だったが、前原氏や神津里季生連合会長にはそこに抵抗があった。一気に小池氏との合流という右転回に振れた。
「僕は(9月1日の民進党)代表選では枝野幸男氏に入れた。野党共闘路線の差があった。前原氏は共産党排除だが、枝野氏は共産党とも協力しようという立場だった。僕からすれば、共産党も問題はあるが、安倍政治の方がもっと日本を悪くする、という見方だ」
連合もそうだ。
「連合主流は非自民、反共産だ。私が信頼しているトヨタ出身の古本伸一郎(愛知11区=小選挙区当選)君も『僕は藤井さんと一つだけ意見が違う。共産党と組むのはどうしても納得できない』と言っていた」
自衛隊員が帝国軍人化する
もし枝野氏が代表になっていたらどうだったか?
「共産党と組んだでしょうね」
むしろ前原グループが割れて出た?
「出たかもしれません」
そうなると、枝野民進党と前原新党となっていた。選挙結果はどうなった?
「わからないけど、やはり合流があり、枝野君が“衆寡敵せず”でやって、それで伸びたと思う」
となると、枝野氏にとっては、あの時、代表になるよりは結果オーライの展開ということか?
「その通りだ。こういう結果になっていない。特に憲法9条については、それを変えることだけは反対するという国民が多い。結果的にそういう人たちの反安倍、反改憲のうねりを受け止める受け皿になった」
立憲民主党の受け皿効果はあった。だが、なお民進党は4分断だ。立憲、希望、参院、無所属勢だ。
「僕はね、一緒になる可能性はあると見ている。その時は老骨に鞭(むち)打っても動くつもりです」
無所属勢が最初に動いた。岡田克也氏を代表に各集団の結節点役を果たしたい、としている。
「無所属は20人ほどいるが、岡田君と野田佳彦君がカギを握ります」
「僕は枝野君に、まずは無所属グループと一緒になれと言うつもりです」
簡単にいくか?
「岡田、野田両君はすでに過去の人との声が必ず出てくる。私は耐えようと思うし、両君にも耐えてもらうつもりだ。枝野君には、一歩引くのはあなただ、岡田や野田を助けてやれ、顧問格で受け入れろと」
「野党がバラバラのままでは9条改憲が通ってしまうぞ、それでいいのか、と。君たちがこの選挙で9条改憲反対の人たちに支えられ党勢を拡大したのならばそれを政治的に実現することにも責任も感じろ、と」
国会内で統一会派を?
「そのへんからでしょう。もう一つ大事なのは、希望の党から抜けてくるのもいると思うんです。どういうきっかけでそうなるか」
大事なのは何をもって再編の軸にするかだ。それを忘れると今回の合流劇のようになってしまう。
「9条の1項、2項はそのままにして自衛隊を明記する、という安倍改憲案にどう対峙するか、だ。そもそもこの国の平和を維持してきたのは誰か。国民全体であり、国民主権の力だ。なぜ自衛隊だけを書くのか。海上保安官、警官、消防士とのバランスが取れないし、俺たちだけが偉いんだとなってしまう」
「こんなことがありました。自衛隊の統幕会議議長経験者にある人物が紹介してくれた。自衛隊にも影響力を持つ保守人士、しかも右寄りの人だ。その人が安倍改憲案について反対を明言した。『自衛官がいばるようになり、かつての帝国軍人化してしまう。自衛隊をまともに育ててきたのがダメになる』とおっしゃった。その通りだと思います」
「新安保法制もあのままでいいと思っている人は少ない。憲法違反ですから」
「もう一つ許せないのは共謀罪だ。憲法で保障された基本的人権を必要以上に規制する。戦争中の治安維持法が浮かんでくる。普通選挙法を制定した時に導入したが、拡大解釈され、立派な学者まで捜査対象になった。岸信介政権時には警職法改正案というのもあった。池田勇人、三木武夫、灘尾弘吉の3閣僚が抗議する形で辞任、政権は断念した。今の政権与党内でそういうことが期待できないのだから、野党が廃案に向けて頑張らなければダメだ」
当面は9条改憲阻止か。ただ、安倍氏はこの選挙で国民の信任を得た、と言ってくるだろう。
「そうでしょうね。ただ、自民党内も一枚岩ではない。宏池会の岸田文雄氏、憲法審査会の船田元氏らの考えは違う。自民党の中にも穏健派がいる。公明も野党第1党である立憲民主党の協力を取り付けるべきだと主張するでしょう」
与党内の抵抗勢力が安倍改憲の歯止めになる?
「私からすると、安倍氏は偏った歴史観に基づいてことをなそうとしている。その自分に自民党がついてきていると思っている」
「ただ、時の政権を本当に倒すことができるのは、与党内の対立抗争だ。野党とマスコミにできるのはそれを煽(あお)ることだ。吉田茂の時は緒方竹虎、佐藤栄作の時は田中角栄がいた。緒方氏の場合は『俺はあんたが首相を続けると言うなら田舎に帰る』と」
安倍氏周辺では?
「いませんね」
緒方氏の福岡同郷人に麻生太郎副総理がいる。
「全然違う」
岸田文雄、石破茂両氏は?
「紳士なんですね」
「ただ、岸田氏にはTBSの収録番組で一緒になった時に言いました。『君は大平正芳さん以来の保守本流なんだぞ、それを忘れるな』と。緒方竹虎の話もした。彼は番組の最後の方では『僕は安倍さんとは違う』と言ってましたよ」
藤井さんお気に入りの野田聖子さんは?
「総裁選には出ると言ってます。ただ、孤独というか、派閥を持ってない」
究極の政治ドラマ「9条改憲政局」
インタビューは終わった。その中で、藤井氏が明かしてくれたあるエピソードについても触れておきたい。03年の民主党(菅直人代表)、自由党(小沢一郎党首)の合併劇の際のことである。あと一歩のところで、菅、小沢両氏の政治スタンスが折り合えない部分が残った。その時に自由党幹事長だった藤井氏を都内の事務所に呼んだのが、京セラの稲盛和夫氏だった。「どうなっているのか」と問う稲盛氏に藤井氏が「菅、小沢間がうまくいってません」と報告、稲盛氏が「一緒になれ。野党が力を強くしなければダメだ。俺が小沢さんを説得する」と調整に乗り出してくれた経緯がある、という。
そういえば、今回の合流劇の中でも、前原氏側の応援団として稲盛氏の名前が挙がったことがあった。もちろん真相はわからない。
さて、安倍氏の9条改憲攻勢に対峙できるのは、野党再結集か、それとも自民党内の政変か。はたまたそのコンビネーションがありうるのか。
9条改憲政局という、究極の戦後政治が始まろうとしている。かつてなかった政治ドラマである。今回の合流劇以上に我々が予想だにもしていなかったさまざまな力学が働き、ものごとが動いていく可能性がある。
じっくりと腰を低くしてドラマの展開を注視していきたい。国民投票という最終局面で、果たしてこの「安倍クラシー」国家がどうなっているか。我々は大きな選択を迫られるだろう。戦後日本の正念場ともいえる。
ふじい・ひろひさ
1932年生まれ。元民主党最高顧問。自由党幹事長、民主党幹事長、大蔵大臣、財務大臣などを歴任
くらしげ・あつろう
1953年、東京都生まれ。78年東京大教育学部卒、毎日新聞入社、水戸、青森支局、整理、政治、経済部。2004年政治部長、11年論説委員長、13年専門編集委員
(サンデー毎日11月12日号から)