米キューバ:国交交渉 「敵対」から「対話」へ オバマ外交実績作り
毎日新聞 2014年12月19日 東京朝刊
【ワシントン和田浩明、サンパウロ朴鐘珠】米オバマ政権は17日、1961年以来、外交関係が断絶しているキューバと来年1月にも国交正常化協議を始めることを明らかにした。キューバを孤立させて民主化を促す過去の政策を「失敗」と認め、断交から関与に180度転換する「過去50年間で最大の変化」(米政府高官)となった。東西冷戦の残滓(ざんし)となっていた両国の対立が解消されて来年、国交が正常化すれば54年ぶりとなる。
オバマ大統領は就任以来、かつての「敵」だったイランやミャンマー、ベトナムとの関係改善に取り組んできた。キューバとの関係正常化に向けた動きは、「対話」を重視するオバマ氏の外交方針を鮮明にするとともに、残り2年の任期で人々の記憶に残る実績作りを目指したものだ。
オバマ大統領は17日昼(日本時間18日未明)に行ったテレビ演説で、これまでの対キューバ政策を「我々が生まれる前の出来事に基づく融通の利かないものだ」と批判。環境の変化に応じた政策の調整が必要だと話し、包括的な新政策を発表した。テロ支援国家指定の見直しを含むキューバへの旅行制限条件の大幅緩和▽キューバへの送金の上限額引き上げ▽通信機器や一部の医薬品、住宅建設資材、農業製品の輸出拡大−−を実施する。
キューバのラウル・カストロ国家評議会議長も同時刻に行ったテレビ演説で、オバマ氏の決断を歓迎し、国交正常化の協議を受け入れる意向を表明。キューバ政府は17日、違法な衛星通信機器をキューバに持ち込んだとして5年前から拘束していた米国際開発庁の委託業者社員、アラン・グロス氏(65)を解放。グロス氏の解放は、昨春から始まった水面下の交渉でカギを握っており、米側は本格協議開始前に具体的な成果を手にした。
オバマ氏は2009年の就任以来、ブッシュ前政権の外交方針を次々と転換させ、「剛から柔」へのアプローチを進めてきた。ブッシュ前政権が「悪の枢軸」と批判し続けたイランとは、12年4月に国連安保理常任理事国(米英露仏中)に独を加えた6カ国と、核問題に関する協議の再開にこぎ着けた。
軍政下での政治的自由の規制などを批判していたミャンマーに対しても対話外交を推進。テインセイン大統領の民主化路線を評価して12年11月には輸入制裁の大半を解除し、同月に現職米大統領として初めてミャンマーを訪問した。「冷戦期に最も多い米国人が死亡した戦争をした」(オバマ氏)ベトナムとも、中国の軍事的台頭を念頭に今年10月、武器禁輸措置を約40年ぶりに緩和。現在、対話が止まっているのは北朝鮮だが、核問題を巡る6カ国協議の再開を目指す方針は維持している。
米国とキューバの外交関係に詳しいボストン大学のスーザン・エクスタイン教授はオバマ外交について「相手を孤立させるより、連携して変化をもたらしている」と指摘し、関与型の取り組みを評価した。
ただ、米議会は来年1月以降、中間選挙で勝利した共和党が主導する。今回の対キューバ政策の変更は大統領権限で可能な範囲内で打ち出している。議会を通じた法改正が必要な分野では難航も予想され、関係正常化には障害も多い。