民意どこへ:2014衆院選 あす投開票 大間原発、揺らぐ争点
毎日新聞 2014年12月13日 東京朝刊
◇函館 全候補が建設反対/青森 税収頼み、議論低調
東京電力福島第1原発事故後も建設が進むJパワー(電源開発)の大間原発(青森県大間町)。津軽海峡を挟んで対岸の北海道函館市では、その是非が衆院選の争点の一つだ。しかし、与野党の全候補が「建設反対」を表明。党と候補者の主張の「ねじれ」もあり、有権者に戸惑いが広がる。一方、「原発マネー」に期待する大間町では、原発問題への関心は高まっていない。【鈴木勝一、森健太郎】
「函館近海は季節ごとに恵みをもたらす宝の海。原発なんてとんでもない」。まだ夜が明けきらぬ函館市の漁港。イワシなどを取る漁船のそばで、南かやべ漁業協同組合長の鎌田光夫さん(70)は語気を強めた。
市は今年4月、国とJパワーを相手に全国の自治体で初めて原発建設差し止め訴訟を起こした。函館は大間原発から最短で約23キロで、30キロ圏内に位置するにもかかわらず、市が建設同意手続きの蚊帳の外に置かれていることへの異議申し立てだった。
市の裁判を支援する鎌田さんは、函館の農水産業や観光が風評被害で大打撃を受けることを恐れる。原発事故が起きれば、北へ1本しかない国道では函館に住む約27万人が「逃げるのも到底無理だ」と思う。
函館市を含む北海道8区では、自民前職、民主元職、共産新人がいずれも「建設反対」を掲げる。だが、自民党は原発の再稼働を目指す。民主党政権時代には、福島原発事故後に中断していた大間原発の工事が再開された。
「誰が我々の声を政権に届けてくれるのか」。鎌田さんは、投票する候補者を絞れず、「地元の苦しみが分かる人かどうか、これまでの行動を見て判断したい」と悩む。
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本州最北の下北半島の先端にある大間町。原発の建設工事の作業員が利用する旅館経営者の男性は「うちは原発さまさま。不安は吹っ切れないが、安全を信じるしかない」と話した。
人口約5800人。福島原発事故による工事の遅れは町財政を直撃する。町は運転開始後の16年間の固定資産税収を約430億円と見込むが、完成が今年11月から20年12月にずれ込んだ。金沢満春町長は「原発は大間だけでなく日本にとっても必要」と強調。衆院選では自民前職の応援演説に立った。
大間町を含む青森2区には、六ケ所村の使用済み核燃料再処理工場もあり、自民前職と、維新元職は原発推進の立場。共産新人は「反対」だが、かつての激しい反対運動も今はなく、議論は盛り上がらない。
町民の間に不安が消えたわけではない。「原発はおっかねえ。でも、そこら中に(大間原発)関係者がいるから、声に出せねえんだ」。寒風が吹く大間港で、出漁準備をしていたマグロ漁師の40代男性はくわえていたたばこをかみ、衆院選の投票先については口をにごした。