ギリシャ、混乱は回避 管理デフォルトに 「市場は織り込み済み」
2012.03.10 東京朝刊 2頁
ギリシャ政府は、やや手荒ではあるものの、金融機関などからの債務(借金)を大きく減らすことに成功しそうだ。ただ、借金に依存してきた体質を改めない限り、問題が繰り返されるおそれは拭えない。問題がユーロ圏のほかの国に及ぶのを防ぐ手立ても、これからの課題だ。
ギリシャの債務削減交渉の決着後に取引が始まった9日の欧州株式市場は、多くの国でほぼ横ばいだった。格付け会社フィッチ・レーティングスがギリシャ国債を「C」から「RD」(一部債務不履行)に引き下げた後も、反応はほとんどなし。「市場はすでに、債務不履行を織り込んでいる」(金融関係者)と言われていた通りになった。
最大の理由は、債務不履行とはいっても、「国債の利払いができない」と突然宣言したアルゼンチンなどとはかなり違うことだ。
ギリシャ政府は民間投資家と4カ月にわたる話し合いを進め、全体の80%を上回る賛同者を得た。EUなどからの1300億ユーロ(14兆円)の追加支援が始まるのも確実だ。企業でいえば、民事再生手続きには入るものの、資金繰りを支えるメーンバンク(主取引銀行)は債権放棄に納得しており、次のスポンサーになってくれる企業も決まっているようなものだ。
債務削減問題で、ずっと心配されていたのが、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)だった。国債に損が出たときに払われる保険の一種だ。ギリシャが債務不履行になると、損をした投資家に払う「保険金」が巨額になり、保険金を払えず経営がおかしくなる金融機関が出るのではないか、と考えられていたからだ。
だが今は、影響は限定的だとみられている。実際に払う保険金の予定額がギリシャ国債発行残高の1%程度しかないことが明らかになったからだ。欧州に比べればギリシャ国債の保有がきわめて少ない日本への影響も小さいと見られる。
ただ、先進国の一員である経済協力開発機構(OECD)のメンバーが債務不履行に陥ったことの意味は小さくない。先進各国の政府債務はいまや、国内総生産(GDP)比で日本200%超、米100%、英80%などの惨状だ。「債務問題に対処するには、財政再建、債務カット、それに中央銀行による国債買い入れくらいしか手がない」(英アナリスト)。債務カットを強行したギリシャは、先進国全体の苦境も映し出した。(ロンドン=有田哲文)
●借金減らし、なお苦境
「我々の野心的な計画を支え、歴史的な試みの中で犠牲を分かち合ってくれた全ての債権者に、国を代表して感謝する」
9日、ギリシャのベニゼロス財務相の声明には、交渉が決着し、ほっとした思いがにじみ出ていた。
民間投資家が受け入れる損失の額が決まったことで、ギリシャが今後返さなければならない債務の大きさもはっきりする。
「ギリシャは安定成長の道に戻るため、必要なことを実行していく」とベニゼロス財務相は声明で誓った。だが、待ち受ける道のりは果てしない。
2020年までに、国内総生産(GDP)に対する債務の比率を今の160%から120%強まで下げる目標を掲げている。今回の債務削減だけでは足りず、毎年の財政赤字を減らしていくことが必要だ。
ところが、財政支出を切り詰めたのが響き、09年からマイナス成長が続いている。失業率はすでにユーロ圏平均の2倍にあたる21%に達した。15~24歳の若年層では51・1%の高率だ。パパディモス首相は「12年半ばには景気は好転する」との見通しを示しているが、税収が見込み通り得られない状況が続けば、財政再建は計画倒れになる可能性がある。
4月末に想定される総選挙も、借金減らしを妨げるハードルになるおそれがある。
不況続きで国民の不満は高まっており、デモがきっかけになった2月の騒乱では、アテネの各所に火が放たれた。
財政再建策に反対する左派勢力が、支持率を4割まで伸ばしている。連立政権を組む2大政党の支持率と伯仲している。総選挙で左派勢力が多数を占めれば、再建策は行き詰まりかねない。支援をさらに追加しなければならなかったり、ギリシャがユーロ圏から離脱したりする可能性も出てくる。(ローマ=石田博士)
●他国へ波及、不安消えず
ギリシャ支援問題は一区切りつくが、「第2のギリシャ」への金融市場の不安は消えていない。
欧州各国とも、借金を着実に減らしていく姿を見せる必要がある。しかし、ギリシャと同じように、多くの国でも景気が悪くなっている。今年のユーロ圏全体の実質域内総生産(GDP)は前年比マイナス0・3%になる見通しだ。
今月に入り、さっそく実例が出た。スペインはGDP比4・4%としていた今年の財政赤字の目標を5・8%に修正し、赤字減らしの幅を緩める方針を明らかにした。今年はマイナス成長に落ち込む見込みのため、GDP比で8・5%にまで膨らんだ財政赤字を一気に減らすのは無理があると判断したからだ。
ギリシャと同じようにEUなどから支援を受けるポルトガルには将来の財政への不安が消えず、国債が売られて金利が高止まりしている。いつまでも財政赤字を計画通りに減らせないと、スペインなどほかの国にまで不安が及び、欧州危機が再び深まりかねない。
研究機関ブリューゲルのピザニフェリー所長は「ユーロ圏が信頼を保つには、各国の財政改革を支える十分な『保険』がいる」と強調する。万が一、スペインなどが危機に陥っても、お金を出して資金繰りを助ける「安全網」が万全ならば、危機の拡大を防ぐことができるからだ。
このため、ユーロ圏各国は3月末をめどに安全網を拡大するかどうか決める予定。最大の資金の出し手のドイツには、負担増を心配して安全網を拡大することへの慎重論が根強い。それを説得して危機対応策を強めることができるのか。まだ気が抜けない状況が続く。(ブリュッセル=野島淳)
■欧州危機をめぐる今後の主な日程
【3月】
9日 ギリシャの債務(借金)削減交渉が決着
12日 ギリシャが大半の債務の削減手続きを完了
ユーロ圏財務相会合
13日 欧州連合(EU)財務相理事会
20日 ギリシャ国債145億ユーロの返済期限(予定)
30~31日 EU非公式財務相会合
【4月】
4日 欧州中央銀行(ECB)理事会
20日 G20財務相・中央銀行総裁会議