ギリシャ債務 強制削減へ 金融機関参加 90%届かず
2012.03.10 読売東京朝刊 1頁
ギリシャ政府は9日朝(日本時間同日午後)、財政再建のための債務削減計画について、国債の額面ベースで、全体の83・5%の民間金融機関から債務削減に応じる回答があったと発表した。同政府は声明で、削減に応じなかった金融機関の国債元本を強制的に減らす「集団行動条項」を発動する意向を表明した。これにより、債務削減計画の参加率は95・7%に上がり、計画の目標に達する。ギリシャが無秩序な債務不履行に陥って世界経済を混乱させる危機は当面、回避された。
削減対象の国債は2060億ユーロ(約22兆2000億円)で、回答期限までに、83・5%に当たる1720億ユーロ分を保有する金融機関が削減に応じた。ギリシャ政府が削減実施の下限とした75%は上回ったが、目標の90%に届かなかったため、集団行動条項を発動する。債務削減は12日に行う。
同条項の発動で、国際スワップ・デリバティブ協会は9日中にも、国の破綻に備えた金融商品「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」の保険金を支払う事例に当たると判断する見通しだ。CDSを売った金融機関に損失が生じる。
ユーロ圏17か国の財務相は9日午後(日本時間夜)から電話で会合を開き、ギリシャに対する第2次支援を実施するための条件が整ったとの認識で一致した。
ギリシャ債務 金融機関 直前まで迷う 削減参加 財政再建なお不透明
2012.03.10 読売東京朝刊 9頁
◇欧州危機
債務削減交渉の決着で、ギリシャは目標通り債務を削減できる見通しだ。しかし、これでギリシャが順調に財政再建を果たせるかどうかは不透明なうえ、危機に臨む欧州各国がどこまで結束を保てるかなど、欧州財政・金融危機の行方はいまだ楽観できない。(ロンドン 中沢謙介、本文記事1面)
■悪影響の試算
ギリシャの債務削減が成功するかどうかは、ひとえに金融機関の参加率にかかっていた。参加率が低ければ債務の減り方が不十分になり、再建計画の根底が崩れるからだ。
ユーロ圏は民間金融機関が保有する2060億ユーロ(約22兆2000億円)の国債元本を53・5%削減し、債務を1070億ユーロ減らす目標を立てていた。第一生命経済研究所の試算によると、目標の達成には95%超の高い参加率が必要となる。仮に参加率が75%にとどまれば245億ユーロ、85%でも135億ユーロの削減不足が生じるところだった。
当初、ギリシャ国債を持つヘッジファンドなどの間では、債務削減に応じて元本を半分以上削減されるより、ギリシャの破綻を横目に、破綻に備えた金融商品「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」の保険金支払いを受けた方が得だとの見方も取りざたされていた。
しかし、締め切り直前の6日、銀行団を代表する国際金融協会が「ギリシャが突然のデフォルトに陥った場合、ユーロ圏に1兆ユーロ(約108兆円)の悪影響が及ぶ」と試算していることが判明し、迷っていた金融機関の背中を押した。
■3次支援?
今回、民間金融機関の参加率が最終的に95%を超えるのは、ギリシャが債務削減を強制する「集団行動条項」を発動するためだ。これにより、CDSを売った金融機関は保険金支払いを求められることになる。
ただし、CDSは一つの金融機関が売り手にも買い手にもなっている場合が多い。売り買いを相殺した正味の支払いは最大32億ドル(約2600億円)にとどまるとみられる。
欧州の金融システムがCDSの支払いによる混乱を避けられたとしても、なお課題は残る。市場では「ギリシャは第2次支援を受けたとしても、いずれ財政再建に行き詰まり、デフォルトを余儀なくされる」(欧州大手銀)との見方が根強いためだ。ユーロ圏各国からも第3次支援の可能性を「排除できない」(ユーロ圏財務相会合のユンカー議長)との声が早くも上がる。
◆「危機収束」は早計
BNPパリバ証券の中空(なかぞら)麻奈・投資調査本部長
「債務削減に応じた民間金融機関の割合は予想より高く、前向きに受け止めている。『秩序立った』債務不履行には該当することになるだろうが、影響は限定的だろう。ただ、ユーロ圏などによる支援の前提となるギリシャの財政再建は、国民の強い反対もあり、きちんと進められるのか疑問が残る。イタリアやスペインなどに危機が波及する恐れも消えておらず、危機の収束ととらえるのは早計だ」
◆安全網の強化焦点
野村証券金融経済研究所の木内登英(たかひで)・チーフエコノミスト
「欧州危機を封じ込めるための安全網の強化について、ユーロ圏が3月末までに合意できるかが次の焦点だ。ドイツの対応がカギを握る。危機に陥ったユーロ圏の国への支援能力を高めることで合意できれば、4月の主要20か国(G20)財務相・中央銀行総裁会議で国際通貨基金(IMF)の強化策の議論も進展するだろう。しかし、合意できなければ、金融市場が再び不安定化する可能性がある」
◆市場ひとまず好感
第一生命経済研究所の田中理(おさむ)・主席エコノミスト
「ギリシャの債務が削減される見通しとなり、市場はひとまず好材料と受け止めた。今後、米国の景気回復が再確認されれば円安・株高がさらに進む可能性がある。しかし、ギリシャの財政再建計画は経済成長率などを高めに設定しており、実現は簡単ではない。4月にも行われるギリシャの総選挙の結果次第では財政再建反対派が政権に加わり、ギリシャが再び市場の懸念材料になる恐れがある」